赤瀬川原平
現在、僕が一番好きな文章家である赤瀬川原平
(一時期、小説を書く時は「尾辻克彦」というペンネームだった)。
全作品制覇するつもりでかなりの数の本を買ったり読んだりしているうちに、「赤瀬川原平リスト」なる著作紹介のコーナーを作ったけど、最近の彼の本はあまり買ってないし、さすがにハズレもあるわけで、全作品に解説を書けないジレンマから本のコーナーの1コンテンツに吸収することに。
赤瀬川原平氏のより詳しい著作リストは
http://www.asahi-net.or.jp/~jr4y-situ/refer/genpei.htmlをどうぞ。
知らない方に説明しておくと、若かりし日の赤瀬川原平氏は前衛芸術家として活躍しており、千円札を使って徹底的に「芸術」したため裁判にもなったりもした。この世にいう「千円札事件」は有名で、現代日本美術史をひもとくと必ず出てくると思う。その後、氏は「前衛」に限界を感じるようになんだけど……。
この「元・前衛芸術家」というのが氏の視点を独特なものにしていることは間違ない。「名画鑑賞」シリーズも近田春夫氏の「考えるヒット」と同じく「目の利き具合」を感じさせてくれる。
芥川賞作家でもある赤瀬川氏だけど、近年はほとんど小説を発表してないし、内容も身辺小説というかエッセイといった方がいい。基本的に「フィクション」体質の作家ではないと思う。
宝島「VOW」の先駆けのような「路上観察」活動から「トマソン」が生まれたり、三省堂「新明解国語辞典」の中に人格を発見したり、「老人力」をブームにしたり、とコンスタントに何かしらのムーブメントを起こしているのも特徴といえる。
最近では中古カメラブームのオピニオン・リーダー的存在でもあり、僕はカメラとか写真というものにあまり興味がないけど、氏のカメラへのフェティッシュな愛とコレクター&マニア的な変な行動
(でもそこに理由があったりする)は、そういう要素も自分にあるから読んでいて非常に共感できる。
ここでは、そんな氏の著作の中でお薦めできるものをピックアップしてみた。
父が消えた(尾辻名義)/絶版
- 1981.03.10.文藝春秋↑
- 1986.08.25.文春文庫
芥川賞受賞作。
小説といっても読んでる方にしてみればエッセイとほとんど変わらないけど、時々出てくる感覚表現はさすが。この「センス」に賞が与えられたんだろうなぁと思う。ゆえにこれ以後小説家としてだけではなく、いろんな方面で活躍できたのだろう
(というかむしろ研ぎ澄まされている)。
いい意味で「こんなのが芥川賞取るんだ!」と思った。
雪野(尾辻名義)/絶版
「雪野」というのは叙情的な風景のように思えるが、おそらく作者本人であろう主人公の、幼なじみの名前。赤瀬川氏の数少ない長編小説であることに加え、自伝的な内容なことも「自伝マニア」の自分にはうれしい。
プロットは絵との出会いを描いた少年時代・上京してからの貧乏時代という2つの時期に分けることが出来る。前者は「まんが道」的な面白さがあるのだが、後者はどんより・陰鬱な印象。渋谷でのプラカード持ちのアルバイトや胃痛の描写など、本当にこういうのを書くとすごいんだけど、最後にあわてて小説としての体裁を取ろうとするあたり、本質的には「小説」を書く人じゃないなと思う。友人・雪野が自分と少しずつ離れ始めるあたりも、もうちょっと面白くなりそうなのにあっさりと描かれていたりして、なんだか筆が逃げてるような印象があった。というか一番の欠点は実際にあっただろうエピソードと、作ったなというエピソードの差が大きく
(いや、実際どうなのかは分からないけど)読者としては戸惑ってしまうのかもしれない。
それでもこれは氏の小説の中では面白い部類に入ると思います。
東京ミキサー計画
前衛芸術ユニット「
ハイレッドセンター」など前衛芸術家時代の活動をまとめた本。
すでに文章家として活躍している頃に過去を振り返っているため、非常に客観的に自分たちの活動を見ていて、その辺が面白い。
反芸術アンパン
「東京ミキサー計画」の前史ともいうべき芸術展「読売アンデパンダン」の記録。「前衛」がイケイケだった頃の熱気を感じたいなら是非。
超芸術トマソン
子供の頃、オヤジが買ってきてかなりショックを受けた。その後「VOW」を初めて読んだときも「なんだ、トマソンじゃん」と思ったもん。
この面白さは口では説明できないので、ぜひ現在も入手可能なちくま文庫版を一読あれ。
カメラが欲しい(尾辻名義)
- 1986.01.15.新潮社
- 1988.12.01.新潮文庫↑
著者初のカメラエッセイ。
科学と抒情/絶版
- 1989.03.15.青土社
- 1992.03.25.新潮文庫↑
タイトルが「科学と抒情」だったのでそういう内容かと期待したらそうでもなかった。いわゆる雑文集。
ちょっと映画に行ってきます/絶版
「キネマ旬報」に1983年10月から連載された、「場内でのおタバコ」という映画コラムを一冊にまとめたもの。時々観てない回があったり、全然関係ないことを書いてたりするのはご愛敬だけど、自分が観たことがある映画が多くて楽しめた。僕が苦手なジャームッシュやヴェンダースを路上観察学的に面白がってたりしてハッとさせられた。文庫化希望。
取り上げてある作品は
「サイコ2」「ガープの世界」「ウォー・ゲーム」「アトミック・カフェ」「コヤニスカッティ」「ときめきに死す」「風の谷のナウシカ」「カメレオンマン」「ライトスタッフ」「ナチュラル」「麻雀放浪記」「お葬式」「グレムリン」「アマデウス」「2010年」「刑事ジョン・ブック 目撃者」「乱」「ランボー・怒りの脱出」「キリング・フィールド」「宇宙からの帰還」「バック・トゥ・ザ・フュチャー」「グーニーズ」「コクーン」「コミック雑誌なんかいらない!」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」「未来世紀ブラジル」「エイリアン2」「フォルスタッフ」「ラルジャン」「ダウン・バイ・ロー」「サクリファイス」「ゆきゆきて、神軍」「最後の戦い」「ハチ公物語」「カラヴァッジオ」「ラジオ・デイズ」「戦艦ポチョムキン」「外人球団」「帝都物語」「火垂るの墓」「ベルリン・天使の詩」「アキラ」「ロジャー・ラビット」「都会のアリス」「バカヤロー!私、怒ってます」「八月の鯨」「右側に気をつけろ」「秋日和」「お早う」「レインマン」「東京画」「タルコフスキー・イン・サクリファイス」「コクーン2・遙かなる地球」「ワーキング・ガール」「メジャー・リーグ」「その男、凶暴につき」「キッチン」「ミステリー・トレイン」
この本で面白かったのが、他人が映画を薦めている時にそれを自分はどう受け取るかという話。例えばAさんが「これ、面白いよ〜」と教えてくれて、まぁとりあえず「そうか」と思っている。で、その後Bさんも「面白いよ」と言ってるのを聞いたときにピンとその面白さの「種類」が分かる時ってあるでしょ?説明が立体的になるというか。
僕はこの赤瀬川氏の文章を読むまで、そういう他人からのレコメンドは
2bitで考えてて、例えば信用しうるAさんが面白いと言ってたら1bit立つ、でもそれだけではまだ保留にしておいて、もう1人信用しうるBさんが面白いと言ってるのを聞いて2bitめが立つ、でそうなった時に初めてチェックする、と。でもそれだけじゃなくて、赤瀬川氏の言うとおり、その薦めた人々の組み合わせもすごく重要なんだよなぁ。
千利休 無言の前衛
超お薦め。。赤瀬川氏は勅使河原監督の「千利休」「豪姫」の脚本を執筆したけど、「千利休」を手がけたときに利休は前衛を越えた先に行っていたことに気づく。ちょうどそれは自分の現在の活動とも相通じ……と、その過程がとてもスリリング。
じろじろ日記
- 1990.10.05.毎日新聞社
- 1996.08.22.ちくま文庫↑
80年代も終わり頃に「毎日グラフ」で連載された日記風エッセイ集。テーマが特にないいわゆる「雑文」は、氏が得意とするスタイルのようで、同じ趣向の著作もいくつかある
(「純文学の素」「科学と抒情」「ゼロ発信」など)。この様なスタイルだからこそ、カメラ・路上観察を主に各「赤瀬川ジャンル」のダイジェスト的な楽しみ方もできる。最初に読むならこの辺からがいいんじゃないかな。
ぱくぱく辞典
料理または食材についてのエッセイ。各項目が「あ〜ん」まで辞典のような順番で並んでいるのが特徴。思わず生唾が出ること請け合い。
紙がみの横顔/絶版
「紙」にまつわるエッセイ。電車で本を読むことについてこだわったり、朝刊の意義について考えたりと読書家にはかなりお薦め。ちなみにこれは「諸君!」の連載だったんだけど、残りの分は「新解さんの謎」の後半に「紙がみの消息」として収録されている。
赤瀬川原平の名画読本
赤瀬川氏がいわゆる「名画」を鑑賞するシリーズの先駆けとなった著作。
洋画オンリーで、モネ・マネ・シスレー・セザンヌ・ゴッホ・ゴーギャン・ブリューゲル・ダ・ヴィンチ・フェルメール・コロー・ロートレック・ユトリロ・マチス・ルノワール・アングルの15作品について書かれている。
「絵は自分が買おうと思って見るとよい」「絵を知識で見ても面白くない」など、絵を「面白く」見るためのガイドとしては恰好の書だと思う。確かに自分も音楽を聴くときに理屈で面白がったり、音楽史的にすごいから素晴らしい作品だ、と思いがちになるが、そういうことをばっさり否定されて、しかもそれが若い頃は現代美術で活躍していた、つまり理屈でしか美術を作っていなかった本人がいうだけに説得力がある。
ステレオ日記 二つ目の哲学
目ではなく脳の中で像を結ぶステレオ写真についてあれこれ考えていくうちに、人間の目・脳の面白さまでたどり着いてしまう。
赤瀬川原平の名画読本 日本編
こちらは日本画編。ただし、同じ絵とはいえ、日本美術という意味で「千利休」の流れにもあたる本書。これは
相当お薦めの本。
葛飾北斎・歌川広重・喜多川歌麿・鈴木春信・東州斎写楽・雪舟・長谷川等伯・尾形光琳・俵屋宗達・与謝蕪村・円山応挙の14作品。
二つセットの屏風「風神・雷神図屏風」が、昔の人はその二つの屏風を立てておくことでステレオサウンドのように楽しんでいたに違いない、とか、絵は印刷の質云々の前にそのオリジナルの「大きさ」で見ないと本質が分からない、などなどこれまた鱗 from my eyesなフレーズ満載。
この本がのちの「日本美術応援団」につながる。
ゴムの惑星
「月刊天文ガイド」に連載されたエッセイ集。天文関係の話題が中心だけど、カメラ関係の話も結構載っている。「ゴムの惑星」というのは赤瀬川氏らの「ロイヤル天文同好会」の機関誌の名前だそうな。
この後の連載は「地球に向けてアクセルを踏む」にまとめられた。
目利きのヒミツ
お薦め。掘り出し物を見つける「目」とは何か?土地を買う話・イチロー・オウム事件・現代美術などから「理性と感覚」のバランスについて書かれている。
文庫版は「正論」1990年9月号の白州正子との対談が「対談・目玉論」として追加されておりお得。それ読みたさもあり古本屋にて買ってしまった。
新解さんの謎
一時期話題になった三省堂「
新明解国語辞典」に、ある「人格」を感じた赤瀬川氏がその面白さを解き明かすエッセイ集。
いわゆる「新明解ブーム」を生み出した本。
日本にある世界の名画入門 美術館がもっと楽しくなる
名画鑑賞シリーズ第三弾。今回は日本の美術館が保有している
- モディリアーニ「おさげ髪の少女」
- ピサロ「ポン・ヌフ」
- ルソー「要塞の眺め」
- ドガ「浴後」
- ピカソ「腕を組んですわるサルタンバンク」
- シャガール「ヴィテブスクの眺め」
- スーティン「セレの風景」
- マルケ「レ・サーブル・ドロンヌ」
- キリコ「ヘクトールとアンドロマケーの別れ」
- マグリット「王様の美術館」
- ボナール「ヴェルノン付近の風景」
- ミロ「パイプを吸う男」
- ダリ「ガラの測地学的肖像」
- クレー「セイレーンの卵」
- レジェ「佇む女」
をレビュー。正直、どの絵も特に好きじゃなかったけど、文章は面白い。絵画版「考えるヒット」。
常識論
様々な雑誌に掲載された依頼原稿を集めたエッセイ集。侘び寂び・ケチ・カメラ・優柔不断など得意なテーマが並んでいて、あまり氏を知らない人が読むにはいいのでは。
金属人類学入門
お薦め。なぜ男は金属的なものが好きか、という永遠の命題について考えている。
我輩は施主である
日本芸術大賞を受賞した藤森照信氏の設計による赤瀬川氏の住居「ニラハウス」が完成するまでを、半分小説スタイルで描いた著書。屋根にニラが生えて茶室もあるという木造住居で、自分で丸太をはつったり
(「はつる」という言葉を初めて聞いた)自分も製作に参加しているせいか、家が建っていくのが壮大な工作をしているようで、読んでる方も楽しめる。藤森照信氏の建築に対する思想
(といってもコムずかしいものではなく、むしろなるほどと納得してしまう)と「縄文人」と呼ばれてるようにかなり立っているキャラが面白い。
最初の土地探しにおける不動産とのやり取りも経験のある人は面白いのでは。
困った人体
人体に関して各部分ごとに書かれたエッセイ。特に「鼻」の項が面白かった。
老人力 全一冊
ブームになった「老人力」1と2が一緒になったお買い得な本。
さすが本家だけあって「優柔不断」からの流れで「老人力」を語り、エッセイストとしての集大成的な本なのかもしれない。
この本がベストセラーになったのは話題性だけじゃなくて、単純に「面白い本」だったことが大きいと思う。
優柔不断術
珍しく書き下ろし。
1章は「あいまいさ」を中心に赤瀬川流日本人論が展開されていて興味深い。
2章は優柔不断という観点から自分史を展開。「千円札裁判」などトピックとしては面白い部分もあるが、やや「優柔不断」というテーマから離れてしまっていて残念。
わかってきました。 科学の急所
理系ファンの文系・赤瀬川原平がいろんな理系の研究者の元へ赴き、いろいろと話を聞いたり実験を見たりする、という最近ありがちな企画。
僕は赤瀬川氏と科学の組み合わせって結構ツボにはいるので、かなり楽しめました。赤瀬川氏が強引に文系的な解釈を加えるところは思わず笑ってしまう。
研究者の話自体も面白くて、「ディスカバリーチャンネル」とか好きな人にはお薦め。特に「ヒヨコ鑑別」の話が目から鱗
(←「理系の研究者」じゃないけど)。
日本美術応援団(山下裕二共著)
山下裕二氏との日本美術を肴にした対談集。新たなパートナー登場、といったところか。お互いの意見が相乗効果を生んでいる。脚注も多くいい編集。
最近の名画鑑賞活動の一つの到達点ともいえる。
我輩は病気である
病気、というか持病や健康・体に関するエッセイ集。「困った人体」からの流れか。
完全に健康を保ってやるぞと意気込むより、病気とつきあってやろうかという「ほどほど」の気持ちの方が健康にはいいんじゃないか、というのが面白い。
悩ましき買物
買物に関するエッセイ。買った物ごとに書かれている。貧乏症な人が必ず体験する買物時の葛藤など「分かる分かる」という内容。カメラもいくつか出てくる。
それにしても文庫になるの早過ぎ。光文社は僕が面白いなぁと思ったのばかり知恵の森文庫に入れるので、思わず二度買いしてしまう。旅先や移動中でも読めるからいいんだけど。
赤瀬川原平の今月のタイトルマッチ
編集者が選んだ書物のタイトル「だけ」から書評をする、という手抜きなんだか画期的なんだか……な本。本のタイトルだけでエッセイが書けるのは氏ぐらいだろう
(苦笑)。
ゼロ発信
2000年春に読売新聞で新聞小説として連載された、日記風エッセイ集。ペットである犬や猫の話題が多い。また、新聞小説という形態により、以前書いたことへの読者の反応が内容に影響したりしている。
最後の方には、絶版となった「カメラウィルス図鑑
(初版)」の顛末も書かれている。
地球に向けてアクセルを踏む
雑誌「天文ガイド」の連載をまとめたものだけに、宇宙に関することが多く書かれている。赤瀬川氏は科学的なことを独自の観念的な視点で捉えると面白くなることが多いんだけど、この本も例外でなくアベレージが高い。これ以前の連載は「ゴムの惑星」にまとめられてる。
全面自供!(聞き手・松田哲夫)
「晶文社のバラエティブック」というと“ハードカバーでどこからでも読める”というコンセプトを想像するけど、この本は松田哲夫とのガチンコ対談勝負。対談ってことでちょっとパスしてたけど、立ち読みしてみると「ダイジェスト赤瀬川原平」って感じで、先生の今までの膨大な仕事のエッセンスをおいしいとこどりで味わえる。
文学校(対談・大平健)
「やさしさの精神病理」で有名な大平健氏が、赤瀬川原平の文章テクニックを読み解くという主旨の対談集。ネタになっている本は「老いてはカメラにしたがえ」「千利休 無言の芸術」「ゼロ発信」「日本美術観察団」。これらの本を読んでからの方が楽しめるはず。