声勝ち
「basia/london warsaw new york」

  1. Cruisin' For A Bruisin'
  2. Best Friends
  3. Brave New Hope
  4. Baby You're Mine
  5. Ordinary People
  6. Reward
  7. Until You Come Back To Me
  8. Copernicus
世の中には「声勝ち」というものがある。
あまり意識しないんだけど、好きな俳優は容姿だけでなく声もタイプだったり。薬師丸ひろ子のように、アイドルが歌う時にもその評価を大きく左右する部分だと思う。
声は顔のように明確に分析できないので、好みの傾向は分かりにくい。でも、確実にそれぞれの好みはある。妙に気になる顔があるのと同様、抗しがたい魅力を持った声というのものが存在するはず。

お金をとって声を聴かせる商売、とくにポップミュージックにおいてはこの生まれながらの声質に恵まれているかどうかというのは、重要だ。「この人、歌は歌えるけどボーカルとる声じゃないよなぁ」とはよく思うこと。歌が下手でも商売になるのは、その歌い方だけでなく声に味があるからだと思う。

そういう「声」が好きだ、という観点から自分のCD棚を見てみると、やっぱりこのバーシアを取り出すことになる。
最初に聴いた時から、彼女の声はタイプだった。よく「ベルベット・ボイス」っていうけど、もっと具体的にいうと絹でほっぺたのあたりをなでられているような、皮膚感覚的な気持ちよさがその声にあるのだ。一時期、ユッスー・ンドゥールの声も好きだったけど、男女を越えて同じような感触があるように思う。

バーシア、といってももしかするとピンとこない人もいるかもしれない。なにせ80年代前半から活躍していた人だ。
僕が彼女を知ったのは、1990年頃にEPICソニーが店頭で配布していた無料サンプラーCD。中身は当時EPICソニーがディストリビュートしていた女性ソロ歌手のさわりだけ何曲かを集めたもので、バーシア以外の収録アーティストは、パトリシア・カース、ビヴァリー・クレイヴェン、ジョスル・ウルスル、シリマ、サリー・オールドフィールド、サビーン・サビーン、フランソワーズ・アルディ。何の脈絡もない人選といえるかもしれない。当時はそういったCDを無料で配るということも珍しかったので、大喜びでもらって聴いたけど、やはりバーシアが別格で好きだった。ちょうど発売されていた「ロンドン・ワルシャワ・ニューヨーク」を借りてきて愛聴盤となったから、つきあいは長いアルバムだ。

当時、ポップミュージックではシャーデー、スウィング・アウト・シスター、ワークシャイ、トミー・リピューマにオーバープロデュースされた時のEverything But The Girl(アルバムでいうと「the language of life」)といった、女性ボーカルをフィーチャーした、ボサノバ・AOR風味のグループがいくつか存在した。バーシアもこの集団にくくられていたと思う。
バーシアは、実はソロアーティストのようでいて、バーシア・チェチェレフスカとダニー・ホワイトからなる「バーシア」という名のグループともいえる。それはグロリア・エステファンが個人名とバンド名両方を指すのと同じようなものと考えてもらえばいい。
バーシアとダニーの二人は、マーク・フィッシャーがイニシアティヴを握る「マット・ビアンコ」のメンバーとして「WHOSE SIDE ARE YOU ON(探偵物語)」でデビュー。しかし、コーラスメインの待遇に不満を持ったバーシアがダニーに
「ダーリン、あたし、もっと歌いたいわ」
「じゃあ僕たちだけでやろうか、ハニー」
というわけで、公私ともに渡るパートナーである二人は脱退して「バーシア」を結成したというわけ。もっとも、マット・ビアンコは多作でコンスタントにアルバムをリリースしているのに対して、バーシアはかなりの寡作。なにせアルバムは現在のところ3枚しか出してない。しかも最後のスタジオアルバムは94年発表だから10年も前だ。僕はもうバーシアは事実上引退したのかと思っていた。

しかし。
本当に世の中は何が起こるか分からない。
先日、バーシアとダニー・ホワイトがマット・ビアンコに復帰して、オリジナルメンバーが20年ぶりに集合、アルバム「MATT'S MOOD」を発表したのだ!バーシアがスタジオ録音盤を出したのだけでも驚きなんだけど、それがマット・ビアンコの新譜なのだから彼らのいきさつを知っていると不思議でしょうがない。こちらのアルバムもシックな仕上がりで悪くなかった。

マット・ビアンコといえば、大学生の頃にアルバムを買ったなぁと思ったけど、ネットを探してもタイトルが分からない。つまり、彼らのファンページみたいなものが、少なくとも日本には存在しないようなのだ。ネットレコード屋で調べても絶版らしい。結局、yahoo!オークションで調べたらようやく5thアルバム「another time-another place」(93年)だということが分かった。
あれだけ名前が有名なのに、ファンの顔が見えないグループだと思う。悪い言葉で言えば聞き捨てられていくグループ。こういうアーティストが20年とか経って再発もされずほとんどの人の記憶から忘れられた頃に、マニアが「名盤!」とかって血眼で探すのだろうか?それともやっぱり忘れたままなのだろうか?

それにしても90年代も過去になった今、この手の渋谷テイストのしゃれたアーティストって減ったなぁ……と思う。逆にいうとなぜ当時、つまり80年代後半〜90年代前半にこの手の音楽が求められていたのだろう?バブル、と言ってしまうにはちょっと乱暴な気もする。
あの時代はいい意味であまり考えなくてよかったのかもしれない。そういう空気にはこの手の音楽はマッチする気もする。今の時代、そこまでニュートラルにはなかなかなれない。

さて、音楽の話からはちょっと離れてしまうが、ジャケットを見てもらえれば賛同してくれる人が多いと信じるけど、バーシアは美人だ。ポーランド人、という変わったプロフィールの持ち主なんだけど、それで思い出したことがある。
かつて親父の仕事の関係で、東欧方面へ家族旅行に出かけ、ポーランドにも寄ったことがあった。観光の一環としてパレエを見たんだけど、その劇場に集まってきたポーランド人の若者たちが美男・美女だらけ!!本当にあれは驚きだった。自分たち家族のアジア系容貌が恥ずかしいとさえ思えた、強烈な体験だった。それを考えると、バーシアの美人っぷりも納得がいくというものだ。

一つ悔やまれるのは、そのポーランドの美女たちの声を聴く機会がなかったということ、だ。

(2004/05/30)