スティール・パン

今まで弾けるようになりたいと思った楽器はいろいろあった。
でも、たとえば「青春デンデケデケデケ」を読んで実際にエレキを手にしてみたけど、生まれついての練習嫌いでやっぱり習得できなかった。とにかく繰り返し何かをやることが苦手なのだ。

そんな僕が、懲りずに今でも弾けるようになりたい、と密かに思っているのが「スティール・パン(スティールドラム)」だ。その名の通り打楽器なんだけど、元々はトリニダードトバコでドラム缶をへこませて叩いて楽器にしたのが始まりと聴く。

それまでもその音色は耳にしたことはあったけど、意識するようになったのはやはりヤン富田のこのアルバムだった。
本人曰く「要するに20世紀の不良音楽の集大成」。つまり、ロックやポピュラーミュージックを表街道とすると、裏街道まっしぐらな作品。といってもアングラ臭は皆無で、脳天気といってもいいほどポップ。ただその音楽的構成は、現代音楽とヒップホップを同列に扱うカオスぶり。
本当に聴いてもらわないとよく分からない作品なんだけど、90年代という時代においてエポックメイキングだったのは間違いない。

ヤン富田はスティール・パン奏者であり、かつては日本のヒップヒップ黎明期のDJでもあり、元祖音響派でもある。「MUSIC FOR ASTRO AGE」はそんなヤンさんの名刺的作品で、もちろんスティール・パンの美しい響きも十分堪能できる。このアルバムでスティール・パンはエキゾチックなだけでなく、非常に宇宙を想像させるようなスペーシーな音色を持つことを知った。
ジャケットはムーグ山本(ex.バッファロー・ドーター)

そして、音響的な遊びをやや抑えめにして(あれで?)スティール・パンの魅力を全面に押し出したのがこれ。
タイトルからも「MUSIC FOR ASTRO AGE」のスピンオフ作品であることが分かるけど、実は個人的にはこちらの方が稼働率が高かったりする。アルバムとしてのまとまりがいいというか、軽く聴くことができるからだろう。
でもよくよく聴くとかなりドープな作品であることは、このアルバムで「DOOPEES」がデビューしていることからも分かる。
南国的ではない、スペーシーなスティール・パンを楽しみたいならこれ以上のアルバムはないと思う。
ジャケットはヤンさん自ら指名したという常盤響。

プロフィール的にヤン富田とけっこうかぶってる、と思う細野御大のエキゾチックアルバムがこちら。
なにせ名著「mondo music」の巻頭がヤンさんで、その次の記事が細野さん。それもそのはず、ヤンさんがインタビューで
「その頃には細野晴臣さんの『泰安洋行』というアルバムが出てて、すごい完成度で自分は同じアプローチでは出来ないなーと固く思いましたね」
と語っているぐらい、共演こそ少ないもののそのマインドは近い2人なのである。

僕は細野さんのトロピカル時代は「トロピカル・ダンディー」「はらいそ」ばかり目がいっていて、しかもこれらのアルバムはそんなに好きじゃなかったから「泰安洋行」はずっと聴いたことがなかった。ところが、最近GONTITIのラジオ番組・世界快適音楽で、スティール・パンをフィーチャーしたインストであるこのアルバムの表題曲をかけていて、一発で気に入りあわててアルバムを購入、愛聴盤となった。
「トロピカル・ダンディー」も「北京ダック」など好きは好きなんだけど、前半と後半で展開が違いすぎて聴きにくい。その点、「泰安洋行」は一貫してインチキ・トロピカル、本人曰くチャンキー・ミュージックがパノラマ的に展開されていて、そのゴッタ煮の魅力を求めてついついCDトレイに載せてしまうのだ。

紙ジャケ復刻版にもついてるブックレットも素晴らしい。アートワークは八木康夫(と書いておいて、ごめんなさい、どんな方よく知りません)

そういえば、かつてメンズ・ビギが出していたという雑誌なのかムックなのか実物を見たことがないから分からない「visage」のvol.5が「誘惑のエキゾチカ」と題した特集号で、
『聖林ハリー』細野晴臣
『デニー翁語る』井出靖
『エキゾチカ90の誕生』川勝正勝
『THOSE 106 ALBUMS OF GREAT EXOTIC SOUNDS』ヤン富田
『文化的芸術趣味附録 EXOTIC BOMBSHELL』沼田元氣
『女体渦巻島』八重樫健一
『インカの歌姫』鈴木惣一朗
『ロッカ・フラ・ベイビー』小西康陽
etc.
といった執筆陣とサブタイトル。読みたい!国会図書館にでも行ってみようかしらん。

ちなみにvol.3がジャック・タチ特集、vol.4がピチカート・ファイヴの「トゥイギー・トゥイギー」のプロモ盤ともいうべき『小西康陽とゴー・ゴー・アタックス/それいけジェームズ』のソノシートがついたスパイ特集。オークションではvol.1〜vol.5揃いで5万円とか値がついてます。
ヤン富田、細野晴臣からの影響大であることは間違いない、砂原良徳のファースト・ソロアルバム。前に書いたけど、系譜的にはヤンさんの甥っ子だと思う。
当時はモンドとかラウンジといった音楽がやや流行りだしていた頃で、このアルバムもそういったテイストを持つものの、ブームに埋没しない、明らかに突出した、裏をかえせば異色な作品だったと思う。
テクノ界ではアナログシンセ回帰時代で「もうサンプラーは使わない」とケンイシイが語っていたような頃。そんな時にサンプラーを使いまくってマッドな世界を展開するという不良性がヤンさんに通じる。ジャケットはもちろん常盤響。

スティール・パンは「2.STINGER STINGRAY」「6. HURALOOP」などでフィーチャリングされているけど、砂原氏は電気グルーヴ時代には「STINGRAY」(「VITAMIN」収録、「STINGER STINGRAY」の原曲)でもシンセでスティール・パン的な音色を出していて、その頃からこういう嗜好があったことがうかがえる。
その後にも「LOVE BEAT」(「LOVEBEAT」ではなく、中に半角が入った別シングル曲。「Sound of '70s」の海外盤に収録されていたりする)でもフィーチャーしていたりとお気に入り楽器ではあるのだろう。
奏者はASTRO AGE STEEL ORCHESTRAの一員でもある田村玄一氏。

その田村玄一氏がペダル・スティール・ギターで参加しているのがこの作品。
LITTLE TEMPOは元々SILENT POETSのメンバーが独立して結成したグループで、UAのアルバムなどにも参加しているインストバンド。その特徴はスティール・パンをフィーチャーしたダブサウンドで、特にこのファーストアルバムでは「なごみ系」的な側面が強く出ている。本人たちはそれがやや不満らしく、だんだんとアグレッシヴかつドープな面をプッシュしていくようだけど、個人的にはこのアルバムが一番好き。気分をニュートラルにしたいときなどにお薦め。
セカンドでは「GONTITI/無能の人」をカヴァーしてます。

最後に偶然レコード屋でみつけて購入したこれを紹介。
「Greg&Junko MacDonald/SWEET DREAMING」2002
「Greg&Junko MacDonald/SWEET DREAMING」
2002
ハワイのおしどり夫婦によるスティール・パンバンドらしいんだけど、バッハや「アマポーラ」「サンタルチア」「エーデルワイス」といった、いわゆるライトクラシックのカヴァー集。
蒸し熱い風呂なんかで聴くのに最適。



本来は元祖であるトリニダードのバンドや、カリプソ、そしてヴァン・ダイク・パークスの「ディスカバー・アメリカ」なんかも取り上げるべきなんだろうけど、個人的にはそちらの南米系のスティール・ドラムにはいまひとつ関心が薄くて、あくまでヤン富田中心で紹介。

実はこの特集はずっと前からやりたくて、ようやく念願がかなった。

(2005/02/20)